いだてん

ストックホルム五輪開幕。改めて少し驚くのは、かつてスポーツあんま興味ないって言ってた人がこういう台詞を書いてるんだなあということ。作家は経験したことしか書かない訳では勿論ないのだけれど。大森監督が控室の三島弥彦に語った「短距離はタイムを競う競技」「一緒に走る選手はタイムという同じ敵に立ち向かう同志」という言葉、素晴らしかった。選手が最も求めていた、監督が最も言うべき言葉。できればもっと早くにだ。ヒョウ的には仕方なかったのだけど、それをはっきり言う三島天狗が良い。なんて顔してるんだろう。短距離というのは本当にシンプルで、足速かろうと遅かろうと、余程の人でない限り人間誰しも「あコレ絶対勝てない」を経験していると思う。物理である。三島天狗は明るい兄貴肌の笑顔を保ちながら己の勝負には絶望している。絶望していても負けるたび心は新しく傷つき、体に疲労が積もるだろう。「ぼかあ寧ろ負けてみたい」と庭で笑っていたあの日の彼の姿、いつか負けるときあの映像が絶対使われるのだろうと、というかそのためのシーンだったと初めから知っていたけれど、然してなおこの編集は悔しかった。編集室に駆け込んで水浴びよろしく「キャー!」と叫びながらフィルムを引きちぎってやりたかったくらいだ。時間遡行する力もないし多分フィルム撮影でもないし。弥彦の最初のレースを観ていた四三の顔も嘉納先生の顔も、とても雄弁だった。正直な気持ちでその顔であるとわかるので救われた。最後のレースを終えた弥彦に四三が「楽しかったですか」と問いかける。あー。誰の中にもプレッシャーがあり、勝利への渇望があり、そして楽しむ気持ちがある。教わり学ぶだけでなくどれも初めから身体の中に入っているのではないかしら。