コクーン歌舞伎『切られの与三』

幕開いてから数日後にラジオで中村七之助のインタビュー聞いて、そうだチケット取っていなかったと探したら、その週末で前の方にぽっかり一席空いてる回があってそこを買った。このくらいでチケット取れるの一番いいなとちょっと思う。そのインタビューで七之助は、与三郎役やってくれと言われて最初「無理です」って断っただとか、今後も立役やるかはわからないとか、そんな感じのことを話していて、それはそれで興味が持てた。
それで実際に見て、とてもよかったです七之助の与三郎。面白かった。終盤のとにかく疾走するシーンで、客席から舞台に上がる手前で振り返ったその目つき、席から近かったせいもありますがとても印象的でした。そんなにしょっちゅう観てる訳ではない中で、いつも美しさ、果ては神々しさの側にいる彼が、転がり続ける生身の男をやっている。そういう生身のエネルギーに挑んでいてまずそれが楽しかったし、そこに持ち前の美や神のオーラがちょっとだけ匂うハイブリッドな持ち味があるのを知れたのもちょっとよかった。その神の力を使わないんだ俺は、的な。私は七之助をなんの化身だと思っているのか。とにかくひどい目に合うシーンがなかなかに陰惨だったりズタズタ感を味わわされてて、ああいうのも結局しっかり泥をつけとく必要があるってことだったのかもしれん。最初めちゃくちゃポヤポヤのボンボンでしたもんね最初。二十歳そこらって初めに紹介されていたのに「あれこの人幾つだっけ、子どもだっけ」って思ってしまった。梅枝のお富さんのあの感じも絶妙。「こういう人なのか」と思いながら自分が「こういう」を定めきれていないのを感じてもいて、いい女だった。最後のシーン、とてもよく作られていたなー。素敵だった。さっきまでのアレがあんな風に小さくなっているだけでももうその景色に心が躍ってしまったし、映画ならこの幕切れの暗転でエンディングテーマとスタッフロールに全身を預けてしまいそうな造りだったと思う。とてもうれしい気持ちになって劇場を出ました。