真田丸

「犬伏」。父と兄と弟が集う最後の日。一世一代の、世界が驚く、掟破りの奇策を発したのは兄だった。このところ晴れず考えこむ顔をしていた兄はいつからかそれを思いついていた。徳川家に出浦殿が乗りこんだときの兄の顔を思い出す。敵味方に分かれるようなことは避けたいと弟に言ったのも覚えている。どの道を進めばいいか先が見えない中でどんな術があるか。父がどうしたいか、弟がどうしたいか、自分の家族は、家はどうか。いつからか思いついていて、決めきれなかった。今日兄が口にした「私は決めました。私は決めました、父上。私は決めた」という台詞。とても台詞だ。繰り返していて劇的だ。書かれた文字が見えるほどに。けど、大泉洋はこの文字列に血の激流を通した。ドラマチックでありながら、そこに居る一人間の、私たちがよく知るあの兄上の、生きている声にした。山が動いた音がした。見ているだけで血が沸騰したよ。弟の驚いた顔と、でもそれ以上の策はないとすぐに知る顔。弟は賢い。そして兄の気持ちがよくわかる弟だ。夜空を見上げながら、弟はずっと目にたくさんの涙を溜め、そしてこぼしていた。そんな弟の姿も、きっと兄を勇気づけたと思う。父は歳をとったし時代の流れには遅れているだろうけれども、衰えたというかまあ天才にしてインプロビゼーションの人であるのは前からで、コヨリのくじ引きなつかしかった。二人の息子の今日の姿を私たちと同じくらい堪能できているのはあの世界では多分父上だけで、してみるとあんな笑みひとつでよく我慢できたなと思います。こっちはお湯が止まらない。最後のシーン作ってくれてありがとう。勝った側についた方が全力でもう一方を助けにいくと兄は言った。その言葉がいつか荊となることがあっても、貴方がそう言ったことは間違いじゃなかったとここに証明するよ。石碑でも割り箸でもなんでもいいから立てておきたい。せっせと地面をほじる私をよそに物語は進んでく。来週の予告ページに「図太い昌幸」とか書いてあって笑っちゃうからやめてほしい。